過労、ストレスによるめまい
45才、男性
運送業(トラックによる商品配送)、体型は内胚葉型
主訴:めまい
※その他の症状:慢性腰痛
現病歴:二週間前に朝の起床時に突然、回転性の強いめまいが発症。めまいと吐き気のため立つこともできずしばらく布団でじっとしていた。3時間ほどしてめまいはまだあるが、何とか動けそうなので会社を休んで近所の耳鼻科クリニックへ行き、めまい止めを処方された。
3日ほど休んで、今は会社へ行っているが(配送はしていない)二週間経ってもまだ治らない(めまい感は半分くらいになった)。
耳鼻科クリニックでは問診と血圧、聴力検査(異常なし)、フレンツェル眼鏡による頭位変換検査などを受け、脳梗塞などの危険なものではないと言われた。
脳MRI検査も異常なし
当院には、1、2ヶ月に1回ほどメンテナンス的な治療を受けに来院している。
アルコール、喫煙の習慣はない。
所見:
今は、めまい軽く常時ある。(ふわふわと)
頭を動かすのが不快で右方向に向くのが少し気持ち悪い。
下向きも少し気持ち悪い。
頭を動かして発作的に出るようなことはない。
血圧135-85、体温36.5℃、脈拍78、血中酸素濃度98%
顔色は悪くないが疲れた印象。
神経症状はない(ろれつがまわらないとか麻痺、しびれなどはなし)
普段は立ちくらみやめまいはないとのこと
これまでに今回のようなめまいの経験もない。
睡眠は1日6〜7時間
坐位で頭位を変換させると右方向と下向きが少し気持ち悪いがめまいは誘発されない。
簡易聴力検査(指、音叉による)で異常なし、ウェーバーテスト異常なし
耳鳴や耳閉感、自覚的な聴力低下は発症当初からない。
注視眼振検査異常なし
レッドフィルターテスト(複視検査)は異常なし、斜視もなし
眼球運動検査では衝動性眼球運動saccadeや追従性眼球運動pursuit検査の結果から→左前頭葉と頭頂葉の機能低下の所見あり。
OKN(視運動性眼振)検査→反応は弱く、右小脳の機能低下もしくは左小脳の機能亢進の所見あり。
VOR(前庭動眼反射)検査→右三半規管-小脳の機能低下の所見あり。
対光反射では瞳孔収縮の保持ができず疲労する→自律神経機能低下の印象。
左右瞳孔観察→交感神経低下の所見あり。
前腕回内回外検査、指-鼻検査、フィンガータップ検査→すべて右小脳の機能低下の所見あり。
軟口蓋、舌の検査は異常なし(脳神経Ⅸ、Ⅹ、Ⅻ)
表情筋は左顔面のトーンが低下している
Romberg検査は右へわずかにふらつくき→これもまた右三半規管-小脳の機能低下の所見。
足踏みテスト右45°へ回転する→右三半規管-小脳の機能低下の所見。
※以上の神経学的検査を15〜20分で行なった。
その他
僧帽筋と後頚筋群の過緊張++(特に右側)→首肩の緊張は普段からあるも、今は頭を動かさないように固定するための防御的な過緊張の印象。
腰部の筋も過緊張+あり。
話を聞くと、会社でのストレスが大きく、仕事もハードで精神的にも肉体的にも疲れているとのこと。
以上の所見や問診により「右三半規管と右小脳の機能低下」が疑われ、また、自律神経の疲労と左脳(特に左前頭葉)の機能低下も考えられた。
これらの原因としては問診からストレスと過労が根本的な要因でないかと推察される。
また、典型的なBPPV(良性発作性頭位めまい症)とも違う印象であった。
治療:
以上の状況を考慮し左右耳介の耳針ポイントを電気的探索法でチェックする(Dr.ノジエの左右大脳の機能的バランス理論も考えて)。
まず右耳介をチェックする
※右小脳と左前頭葉機能低下が考えられるので右耳介からの刺激が特に重要である。
前頭葉ポイントの反応が強い、眼球運動ポイントも反応する
→刺鍼しながら眼球運動を再チェックすると即座に改善(著効)
→対光反射も再チェックするとこれもまた即座に改善している。
→瞳孔の大きさも良くなっている。
小脳ポイントも反応
→刺鍼(右三半規管および右小脳アプローチ)
神門ポイントも反応
→刺鍼(自律神経の調整)
次に左耳介のチェック
※右耳介から左脳への入力を優位にしたいため、左耳介は少穴でドーゼは抑えた。
ポイントゼロに反応(ここは身体全体に影響するポイントでもある。ノジエ式では重要ポイント)
→刺鍼
視床ポイントに反応
→刺鍼(固有受容器からの感覚入力を調整。ノジエ式ではこの視床ポイントは重要)
置鍼した状態で小脳の各検査を再チェックする→かなり改善している。
もう一度、眼球運動とVORをチェックする→かなり改善している。
坐位にて僧帽筋と後頚筋群を再チェックする→筋はかなり緩んでいる(著効)
抜針後、上記の右耳介ポイントのみ円皮針を貼って(右小脳、左前頭葉へのアプローチのため)この日は終了した。
4日後(2診目):
眼球運動検査、小脳の検査、Rombergなどの平衡検査、対光反射などを5分程で再チェック
全ての検査で改善が見られた。
今はめまいはほとんど感じられないとのこと。ただし頭を動かすと少し不快感は残っているが、気分的にはかなり良くなったと喜んでおられた。
その日も耳介を再チェックし右耳介3ポイント、左耳介2ポイントに刺鍼。右耳介のみ円皮針を行い二週間ほど様子を見てもらうことにした。
その後、問題なく仕事をしているとのこと。
考察:
本症例は問診、所見から過労、ストレスから発症しためまい症と思われ状態としては神経学的検査と問診より典型的な右三半規管と右小脳の機能低下および左前頭葉の機能低下が推察された。そして、刺鍼直後に神経学的な再検査を行なった結果、即座に良い反応を示した。このようにビシッと型にはまればアプローチしやすいのだが、そうではないケースも多くあるのでめまい症は難しい。
めまい、平衡障害の治療において眼球運動の問題はキーとなるところなので、眼球運動の神経学的なメカニズムの理解は必要不可欠である。また、ケースによっては自宅での眼球運動エクササイズや平衡エクササイズの処方も必要であろう。
三半規管と小脳は同側において兄弟のように密接に関係しており、めまいのような平衡機能が関わる問題は三半規管のみでなく小脳の状態も考慮することが必要だ。
またストレス的な要素も基盤にあると思われる症例なので交感神経ポイント、前頭葉ポイント、扁桃体ポイントのほか下垂体ポイント、副腎ポイントなどHPA-axisにアプローチする方法も検討しなければならない。
ノジエ先生の耳介療法は、めまいにはこのポイント、あの症状にはあのポイントと本を見て短絡的に刺鍼ポイントを決めるものでなく、問診や理学的検査、神経学的検査からどこに機能的な問題があるかを考え、その中から刺鍼ポイントを探索、決定し治療するもので、これこそが本当の”医療としての耳針”と我々は考えている。